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【レビュー】熱狂的ファンを持つ映像の詩人・タルコフスキーの初監督作品『The Killers/殺し屋』

2017年5月26日

『The Killers/殺し屋』
Marika Beiku, Aleksandr Gordon & Andrei Tarkovsky/21:19/ソビエト連邦/ドラマ/1956

作品詳細はこちら http://www.shortshorts.org/2017/prg/ja/1344

 

『惑星ソラリス』で知られるソ連の名匠、アンドレイ・タルコフスキーの初監督作品。全ロシア国立映画大学3年、23歳の時に共同制作した約20分のモノクロ映画です。

 

この映画が作られたのは第2次世界大戦終結から11年後の1956年。ソ連ではスターリンが亡くなりフルシチョフ体制が始まった頃でした。東西の冷戦状態が一時「雪解けを迎えた」といわれた時期で、当局もスターリン時代に著しく質が低下した映画産業を盛り返そうとやっきになっていました。

 

当時、西側の欧米文化に傾倒したソ連の若者のことを「スティリャーガ」と呼んだそうですが、タルコフスキーもそんな若者のひとりでした。ウクライナの貴族出身の詩人を父に持つタルコフスキーは、音楽や絵画への傾倒を経て映画の道を志していました。

 

その頃のタルコフスキーが影響を受けた映画監督は、『赤い風船』(1956年・フランス)のラモリス、『道』(1954年・イタリア)のフェリーニ、そして『羅生門』(1950年・日本)や『七人の侍』(1954年・日本)の黒澤明だといわれています。私達にもお馴染みの西側の映画監督ばかりですね。

 

この『殺し屋The Killers』は映画大学の課題で共同製作したもので、原作はハードボイルドの巨匠・ヘミングウェイ、舞台もアメリカの田舎の食堂です。

でもこの映画からはあまりアメリカらしさは感じられません。カメオ出演しているタルコフスキーが、原作にはない『バートランドの子守歌』を口笛で吹いたりしていますが、そもそも会話からしてロシア語です。

 

やはり私にはKJB(ソ連国家保安委員会)のスパイ達が暗躍しているような、ソ連的な暗さや不気味が感じられました。

 

第2次世界大戦やスターリンの大粛清といった記憶がまだ生々しい、当時のソ連の空気がそうさせているのかもしれないし、後に表現の自由を求め、ソ連からの亡命という道を選んだタルコフスキー自身を反映しているのかもしれない、そんなことまで連想しました。

 

しかしそこまで深堀しなくても、原作に沿った殺し屋たちのシニカルなセリフや、様々な暗喩、凝った構図や映像美などが堪能できる、とても興味深い短編映画です。

 

その後のタルコフスキーの活躍を一部ご紹介します。

1962年、初の長編映画『僕の村は戦場だった』で、ヴェネチア国際映画祭のサン・マルコ金獅子賞とサンフランシスコ国際映画監督賞を受賞。

1972年、『惑星ソラリス』でカンヌ国際映画祭審査員特別賞受賞。1978年に第9回星雲賞映画演劇部門賞受賞。

1983年、フェリーニ映画の脚本家、トニーノ・グェッラを起用した『ノスタルジア』を製作。カンヌ国際映画祭創造大賞、国際映画批評家賞、エキュメニック賞受賞。

1986年、ベルイマンの映画のスタッフと共に核戦争をテーマにした 『サクリファイス』 を製作。カンヌ国際映画祭審査員特別大賞、国際映画批評家賞、エキュメニック賞、芸術特別貢献賞受賞。

 

詩情溢れる神秘的な映像美で、世界の破滅と人類救済の啓示を表現し続けたタルコフスキー。

その片鱗と、彼が追い続けた永遠のテーマが、この『殺し屋The Killers』にも既に表れていると思います。

 

そして実は現在も、北朝鮮問題やシリア問題など、世界の破滅の危機は続き、人類は救済の啓示を求めているのだということを、忘れてはいけないと思います。

 

かつて映画の先進国として数々の映像革命を起こしたロシア(旧ソ連)。その中でも映画芸術と映画哲学の頂点に達したといえるのがタルコフスキーです。

今、タルコフスキー作品を見直す意味は充分あると思います。

 

作品詳細はこちら http://www.shortshorts.org/2017/prg/ja/1344

—この記事はボランティアライターの協力で制作されました—

【ライタープロフィール】

重久直子

高校時代より自主映画製作にのめりこみ、『grey’s』でPFF83入賞。子育てが一段落した頃よりシナリオライターとして活動。2013年舞台『坂本龍馬』脚本、2016年RKBラジオドラマ『シアワセの高取家』脚本メンバーなど。好きな映画監督は一貫してフェリーニ!

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