Column シンガポール

7名の映画監督が創作力と映画製作技術を集結させた一大プロジェクト、『7 Letters』 – シンガポール

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2015年、シンガポールは建国50周年を迎えました。その節目の年にシンガポールで最も優れた7名の映画監督が創作力と映画製作技術を集結させた一大プロジェクト、『7 Letters』を発表しました。今回のコラムではそのプロジェクトを紹介します。

『7 Letters』はそれぞれの監督が“ホーム”と呼ぶ場所と自身との個人的で深いつながりを描いた、シンガポールへの心からのラブレター。失恋、アイデンティティ、世代間や家族の絆・葛藤、付き合いの無い近隣とのやり取りや伝統芸能などを通してシンガポールとそこに住む人々を描きます。

ブー・ユンファン、エリック・クー、K.ラジャゴパル、ジャック・ネオ、タン・ピンピン、ロイストン・タンそしてケルビン・トング。シンガポール映画を代表する著名監督7名が、シンガポール人の生活と物語を情緒溢れる作品集にしてお届けするものです。

ここで各監督をともにプロフィールを紹介します。それぞれの経歴を見て、今のシンガポール映画界事情も垣間見ることができます。


エリック・クー

カンヌ・ヴェネチアなどの有名映画祭で作品が上映されたシンガポール初の映画監督。代表作は『12 Storeys』『My Magic』『TATSUMI漫画に革命を起こした男』。またロイストン・タン監督『15』など数々の受賞作品のプロデューサーとしても知られる。シンガポールフィルムコミッションの創設に携わり、これまでに数々の国際映画祭で審査員を務めている。

 

ブー・ユンファン

シンガポールとスペインの映画学校で学ぶ。長編処女作『Sandcastle』はカンヌ国際映画祭国際批評家週間にてプレミア上映され、ベトナム国際映画祭で複数の賞を受賞。Young Artist Award, シンガポールYouth Awardを受賞するなどシンガポール政府からも賞賛される若手映画監督。

 

ジャック・ネオ

シンガポール政府が授与する文化賞Art Cultural Meddalion賞の受賞者ジャック・ネオ監督はシンガポール歴代興行収入第3位のヒット映画『Money No Enough』で脚本家・役者として映画デビュー。また監督をつとめた『Homerun』はシンガポールでは初となる台湾金馬奨最優秀賞を受賞、国内外での認知度を高めている。

 

ケルヴィン・トン

1995年『Moveable Feast』の共同監督としてデビュー、同作はシンガポール作品としては初めてニューヨーク近代美術館で上映された。『It’s A Great Great World』は2011年の映画興行収入第1位、シンガポールエンターテイメントアワード2012で複数の賞を受賞している。

K.ラジャゴパル

K.ラジャゴパル監督はシンガポール国際映画祭にて特別審査員賞を3年連続受賞。シンガポール芸術祭・Theathreworks、シンガポール国立博物館からの委託作品なども監督している。また舞台俳優としても10年以上活躍、様々な有名舞台監督作品に出演。

タン・ピンピン

タン・ピンピン監督の作品はシンガポールの劇場や学校のほか、シンガポール航空機内でも上映されており、またベルリン国際映画祭や釜山国際映画祭で上映されるなど海外での評価も高い。ドバイ国際映画祭、台湾国際ドキュメンタリー映画祭にて賞を受賞しているほか、2001年『Moving House』では学生アカデミー賞を受賞。

 

ロイストン・タン

ロイストン・タン監督はこれまでに国内外60を超える賞を受賞しており、2001年にはASEANディレクター・オブ・ザ・イヤ-に選ばれている。『15』は2003年にシンガポール作品として初めてヴェネチア国際映画祭に入選、また『881』はアカデミー外国語映画賞のシンガポール候補に選出された。

 

この『7 Letters』をショートショートフィルムフェスティバル & アジアにおいて紹介できるチャンスがあればよいと思っています!

 

 

コラム1東南アジアのショートフィルムにおける現状と未来シンガポール

Derek Tan (シンガポール)

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インターネット上でのストーリーテリング

ストーリーテラーがその地域の物語を共有する技術は、太古の昔から変化を遂げてきました。洞窟壁画の時代以降、紙や印刷、ラジオ、映画、テレビ、そしてインターネットの発明により、現代技術は発展してきました。シンガポールでは、大半のネットユーザー(50パーセント以上)が、少なくとも週に1度、インターネットで動画を視聴。この強力な視聴傾向は、YouTubeやViddseeなどの動画サイトの存在が大きく影響しています。また、動画の情報を収集できるニュース・フィードなど、ソーシャル・メディアの利用も関係しています。

私たちは、インターネットを利用して視聴者に動画を配信する映画製作者や企業に話しを聞きました。映画製作者のロイストン・タンは、自身のショートフィルム作品「Vicky」をオンラインで配信しました。都市国家として成長するため、変化を続けてきたシンガポール。彼は、その記憶を残したいという思いを、当時を象徴する物を通して表現し、広く世界に伝えました。公団住宅(HDB)やシンガポール共同募金会、健康増進委員会(HPB)などの政府系企業も、映像の製作を依頼し、企業を宣伝するショートフィルムをオンライン上で公開しています。父親の息子に対する静かな愛を描いた、ダニエル・ヤン監督の「Gift」は、シンガポール国内で急速に広まり、アメリカやブラジルの他、世界中の国々で人気を集めました。ショートフィルム作品は、インターネットで配信することで、独自の形態を築いています。Viddseeでの私の役目は、ショートフィルムを配信するエコシステムを成長させること。そして、ローカルで製作されたインターネット向けの新たな作品をサポートすることです。

ストーリーテラーの声を伝える方法

昨今では、テレビや映画館で公開される主流のローカル作品に不満を感じている人が多いようです。映画製作者たちは、従来の内容とは違うものを伝えたいという願望を常に抱いています。ショートフィルムは、地域の真の物語を世に送り出す方法として誕生しました。

映画製作者たちは、自身の生活環境や地元の人々の人生の一片を取り上げ、ショートフィルムの形式で伝えています。ジェームズ・クー監督の「Hentak Kaki」という作品は、軍隊に所属する軍部指導者たちの現実的な問題を描いています。この作品は、多くの視聴者がその問題に対し、それぞれの経験やその実態を共有し始めるキッカケを作りました。

 

実用最小限の製品(MVP

MVPとは、最小限の労力で得た有効な知識を、最大限に生かして作られた実用最小限の製品のことです。ショートフィルムは、映画製作者のMVPで、キャリアをスタートさせる手段として使われています。彼らはショートフィルムで製作のノウハウを学び、実験的に製作。様々なルートから資金を探し、映画祭や上映会を通して作品を売り込みます。ショートフィルムは、次の作品の製作につながる名刺代わりとなり、また試行錯誤の過程から学習し、成長できる貴重な方法でもあります。その過程は、映画製作者が長編作品で成功するまで続くかもしれません。

アンソニー・チェンは、この手法を提唱する人物です。彼自身、ショートフィルムの製作から地位を高めていきました。初期の作品である「G23」は、他の製作者を真似て作られたものです。その後、製作した「Ah Ma」は、彼自身の話をより取り入れ始め、「Lighthouse」は、さらに主観的なものを感じさせる作品となりました。このような進歩を続けた結果、彼は長編作品「イロイロ ぬくもりの記憶」でカンヌ国際映画祭 の「カメラドール」を受賞。第50回 台湾金馬奨では、最優秀長編作品賞や最優秀新人監督賞を獲得しました。

中流階級の増加と技術の進歩

技術の進歩は、制作費の削減にも影響を及ぼしました。ニコンやキャノンのデジタル一眼レフカメラや、720p以上の画質で撮影可能な携帯電話などが製造されているからです。さらにポスト・プロダクション向けのソフトも品質が向上。同時に価格も下がり、利用者の機材(携帯電話を含む)との互換性も高くなっています。また、作品の流通ルートも広がり、作品よっては流通を制限するテレビ局や配給会社は、仲介者としての役割を終えました。映画製作者たちは、インターネットを頼りに世界中の視聴者に発信することが可能です。シンガポールでは中流階級の増加により、低予算で製作する作品を自費でまかなう製作者たちが増えています。

 

ブランデッド・フィルム

広告宣伝費は、デジタル広告への移行が進み、特にテレビ広告費は、ますますオンラインの映像コンテンツへ分配し直されています。企業は、プロダクト・プレイスメントの先にある、ショートフィルムでのストーリーテリングに関心を向けています。オンラインでは、従来の30秒CMにとらわれず、ショートフィルムの自由度を活用。ショートフィルムを長尺の広告フォーマットとして広告主に提供できます。この方法であれば、映画製作者は発注を受け、作品を製作することになります。

 

製作者を支える映画のエコシステム

個人的な話ですが、私は独学の映画製作者です。子供の頃から身近にあった技術と、駆け出しの製作者を支えるエコシステムに救われました。シンガポール国際映画祭などの映画祭は、シンガポールや東南アジアの若手の映画製作者に上映の機会を提供。キャリア形成の助けとなっています。さらに、「ザ・サブステーション」は、国際短編映画祭を創立し、毎年製作されている数多くのショートフィルムを、シンガポール国際映画祭が開催されていない時に上映しています。ザ・サブステーションの上映会では、初参加の映画製作者を支援することを目的に、プログラムが組まれています。また、シンガポール国立博物館が開催している「Singapore Short Cuts」も、製作者に作品を上映するチャンスを与えています。

この1年間で、「Cathay Motion Picture Awards」や「Yahoo Fast Flicks」、Singapore Media Academyによる「180 Short Film Competition」など、賞金が1万ドルにおよぶコンテストが行われています。また、資金の援助は、シンガポール映画委員会からも得ることが可能です。新人の映画製作者を育てるラサール芸術大学の「Puttnam School of Film」や、専門学校の「Temasek Polytechnic」など、学位を取得できるスクールも多数あります。残念なことに、ニューヨーク大学ティッシュ・アジア校やチャップマン大学などの有名校が、この1年の間に閉校となりました。

映画のエコシステムを最大限に活用した製作者の好例は、ジェイソン・リーです。彼は17歳の時にショートフィルム「Closer Apart」を製作した人物で、現在、短期大学に通っています。彼はショートフィルム製作の支援を受けるため、エコシステムを利用。撮影に必要な貸家の手配や、実績のある製作者から脚本のアドバイスを受けるなどしました。

コラム2「東南アジアのショートフィルムにおける現状と未来シンガポール」

Derek Tan (シンガポール

こうして我々はモバイルシネマを始めた

アンドリ・カンの映画「リベンジ」は、ジャワの女性が、浮気をする恋人に復讐する、とても恐ろしい映画です。また、ノリス・ウォンの「フォール」は、自信を持てない女性が真実と向き合うために葛藤する様を描いた興味深い作品です。どちらの映画もインドやインドネシア、タイ、香港など、アジアで開かれた映画祭で審査員の高評価を得ました。

映画祭で注目を集めた「リベンジ」と「フォール」は、その後、Viddseeでも話題となり、それぞれが50万回、30万回も再生されています。現在、短くてもクオリティの高いコンテンツの需要が高まっています。中国から始まった「モバイルシネマ」という新しい概念が、アジア中に広まりつつあるのです。

アジアの作品がデジタル時代に強いことに我々は着目しました。それらを一堂に集めたプラットフォームがあれば、コンテンツとしてもっと生かせるのではないか、こうしたコンテンツを視聴者に直接届けることはできないか、そう考えて、私とジアンはViddseeの立ち上げを思いつきました。我々は、これぞと思ったコンテンツだけを視聴者に直接提供するサイトを作ったのです。質の高いエンターテインメントを望む視聴者が存在すると確信していた我々は、「最高」を合言葉にプラットフォーム作りに取り組んできました。

サイトの管理が単純化すると、サイトが作品に、却って悪影響を与えてしまう恐れがあります。サイトが単なる映画の検索エンジンとなってしまうか、コンテンツ置き場となってしまい、すぐに目新しさのないものになってしまうでしょう。アジアの文化は、バラバラで全く関連性のないものに見えることもありますが、その多様な文化が物語を作る上で効果的な役割を果たしています。その多様な文化こそが現在のデジタル時代に合致しているのです。

早い時期からジアンと私は、コンテンツを中心とするサイトを作ろうと考えていました。デザインの方針、視聴者へのもてなし方を決める上で、「コンテンツ重視」という考えが常に基本となりました。ユーザーに愛着を持ってもらうにはどうすればいいか、ユーザーと我々との接点を考える際の基本にもなりました。

我々は同じ志を持つ人たちに連絡を取り、デベロッパーやライター、コンテンツの管理者などを雇い入れました。我々が尊重したのは映画製作者と視聴者の双方です。おかげで、コミュニティ作りと製作側に有利な配給が同時に可能となりました。視聴者が作品に親しみを持つことで、製作側が視聴者により近づいたのです。

Viddseeで視聴される映画はどれもとても面白いです。視聴者はスクリーンで見ているのと同じ感覚になれるでしょうし、慣れ親しんだ景色に引き込まれるでしょう。映画市場の大きな負担となるようなスーパースターを使う必要はありません。個人レベルの作品を売り込むこともできます。フィリピンの視聴者が台湾の視聴者と同じコンテンツ、例えばインドネシアのアンドリ・カンの映画や香港のノリス・ウォンの映画を夢中になって楽しむことができるのです。

我々の次の課題はノイズを取り除くことでした。メディア消費時間は年々増えています。ターゲットとなる視聴者に適切な映画を届けるために、映画のプラットフォームやその他のツールが役に立ちます。

我々はコンテンツの独占を目的としてサイトを始めたわけではありません。他人と情報を共有することがインターネットのシステムで大きな位置を占めるからです。また我々は、映画のハイライトを編集して紹介する「Viddsee BUZZ」を立ち上げ、映画の売り込みを後押しできるようにしました。作品の論評は、台湾やフィリピン、インドネシアなど、各国の市場に合わせたものにしてあります。

アジアのコンテンツは世界中の視聴者に受け入れられると、我々は信じています。そのため、我々はパブリッシャーやYoutube、Yahoo、ハフィントンポストなどのオンライン・プラットフォームと関係を築いてきました。こうしたサイトは様々な考え方を受け入れる深い懐を持っており、例えばアメリカやアラブ首長国連邦、イギリスのユダヤ人の考え方に共感するきっかけにもなるのです。アジアの短編映画の視聴者はこれからも増え続けるでしょう。

映画の視聴はパーソナルなものになっています。 モバイル機器での視聴が可能となったことで、こうしたコンテンツが特別なものではなくなり、視聴者は映画という枠にとらわれなくなりました。新たな形で映画が復活する道が開けたのです。東南アジアの人間関係や会話、物語は、もはやエキゾチックで外部から誤解を受ける存在でなくなりました。

我々のサイトはコンテンツと視聴者との距離が近づくよう設計されています。コミュニティを提供して意見交換が活発になるようにし、視聴者がコンテンツについて深く考えられるようにしています。オンラインコンテンツのシステムは常に進化しています。我々はサイトを立ち上げたわずか2年間で、新しい波を作りました。この結果に我々は非常に満足しています。

ジアンと私はアジア人の物語を発信するプラットフォームを作りました。クオリティの高い映画を作る人々が大勢に知られるのは素晴しいことです。我々には次の大いなる目標があります。製作者と共同での映画製作です。製作者の次なる表現を手助けすることが狙いです。我々はアジアを旅行者の視点で見せようとしているわけではありません。アジアの国々は活気に満ち、都市は美しく、自然にも恵まれています。我々はアジアの現実を様々な国の言葉で、様々な国に紹介したいのです。映画を通してアジアの新しい側面が発見される限り、我々は挑戦を続けていきます。

 

 

Column by Derek TanDerek Tan (シンガポール)

映画監督、編集者として映像制作に携わるほか、アジアのショートフィルムのオンライン・ビデオ・プラットフォーム「Viddsee.com」の共同創設者でもある。監督作品に『CASHLESS』(2009)、『Minute』(2007), 『Crack』(2006)。様々な技術を通じて、メディアの消費のあり方を変化させることを目標に活動している。