映画祭運営とビジネスの可能性について LA インタビュー:ホリーショーツ映画祭ダニエル・ソル氏

映画祭運営とビジネスの可能性について LA インタビュー:ホリーショーツ映画祭ダニエル・ソル氏

2010年に行われた、世界の映画業界で活躍する著名プロデューサーや監督への連続インタビュー。

長編を取りながらも短編映画を製作する意義とは?短編から学べる映画製作技術とは?ハリウッドや世界の映画業界で活躍する人々にお伺いしました。5年後でも色あせないインタビュー内容をお楽しみください。

ダニエル・ソル氏

ホリーショーツ映画祭ディレクター、共同創立者。大手独立系映画会社ライオンズ・ゲート・エンターテインメント(アカデミー賞受賞作品「クラッシュ」やホラー映画の「ソウ」シリーズを手掛ける)の国内配給部門に勤務。

Daniel-Sol


 

映画祭運営とビジネスの可能性について

ソル氏は、大手独立系映画会社に勤務しながら、2005年、毎年、ロサンゼルスで開催されるホリーショーツ映画祭を立ち上げた。(www.hollyshorts.com)映画祭を立ち上げた目的は、若手映画作家の作品を多くでも紹介する場所を作りたかったという。当初は、30本ほどの応募が、200から600になり、2010年の目標は全世界も含めて1000本だという。映画祭日数も、立ち上げた当初の3日から1週間になった。ライオンズゲート社に勤務をしている彼は、二束のわらじを履いて映画祭を運営しており、映画祭基本の運営資金は、スポンサーによる。主に、映画祭受賞者に対して、次回作のポストプロダクションを10000ドル分(約930万円)無償提供するほか、REDカメラなども無償レンタルできる仕組みになっている。なるべく多くの賞を設立し、その賞ごとのスポンサーを募る方法を目指す。撮影賞には、1000ドル(93万円)のカメラ機材無償提供があるほか、小さくても100ドル分のレンタル機材のクレジットが副賞となる。

ソル氏に、二束のわらじと映画祭運営について聞く。

ソル氏: 「ライオンズ・ゲート社で仕事をしながら、映画祭を運営しています。過去2年 でようやく、チケットの売り上げ、スポンサー資金で、わずかに黒字に転換しました。で も、まだまだ、「個人の趣味」レベルですね。理想をいえば、将来、私もこの映画祭だ けで仕事をしたいと思っています。ただ、非営利という認識は無く、映画祭をコマーシ ャルに大きくしたいですね。映画祭に関わるスタッフは私も含めて、7,8人いますが、 全員、それぞれ仕事を持っています。なので、将来は彼ら、彼女たちに給料を払って映画祭を年間通じて運営をしたいと思っています。ライオンズ・ゲートの仕事が嫌いなわけではありません。国内配給、国内劇場の仕組みが勉強できるほか、何といっても、コネクションができます。そのおかげで、映画祭もサンセット通りにあるLaemmleシアター(1938年創業の老舗劇場)で行っていますし、オープニング式典は、DGA(化全米監督協会)の劇場で行っています。毎回、チケットは完売です。映画祭創業者のパートナーは、PRの仕事をしていることもあり、彼の力で、メディア、セレブを誘致できるほか、(ラッキーなのは、)ロサンゼルスという場所が良いです。セレブや、監督たちも、こちらにいますからね!(笑)また、遠方の監督達にも、我々も航空券、ホテルなど割引を提供します。海外は、スペイン、ドイツ、メキシコ、インドなど監督がこられます。日本からは、ここロサンゼルス在住の監督ということでは、参加したもらったことはあります。(笑)」

ショートフィルム製作において、大事なポイントは?

ソル氏: 「ショートフィルムの魅力はやはり、作家が、自由な表現ができるのと、作ろうと 思えば作れることです。フィルムメイカーとして言いたいことが表現できる可能な場所です。また、ほとんど、私が手がける作品は自身のルーツでもある日系アメリカ人の歴史です。教科書では無視されている歴史、話があるわけで、それらの物語には価値があります。内容に教育的価値があると、それに対応する団体から助成金を受けることも可能ですし、最終的に学校の授業で題材として取り上げられても、2時間の映画ではなく、ショートフィルムで短く、生徒にも見せやすいですね。」

ショートフィルムのビジネスチャンスに関しては、どう思いますか?

ソル氏: 「90年代後半には、全く無かったし、私が映画祭を始めた頃の2004年もまだまだ、インターネット上ではYouTubeもありませんでしたね。過去の映画祭のパートナーもネット関係の会社がありましたが、全て消えていきました。ビジネスモデルのほとんどが、失敗しているといえるでしょう。基本、視聴者はネットで「支払う」という感覚が無いのでしょう。ただ、5分ほどのショートフィルムなど、携帯などにポテンシャルはあると思います。映画祭を行っている我々の立場でのビジネスとしては、監督達の「仲介人、ミドルマン」になることです。作品だけでなく、タレント(才能)も売り込んでいくわけです。ショートフィルムに商業的価値があれば、その監督をコマーシャル撮影に起用していくとか。我々の受賞者もほとんど、コマーシャルの業界で活躍するようになりました。

インターネット事業で大事なのは、単純にどうお金を生み出すかではなく、「どう、フィ ルムメイカー(作り手の監督・プロデューサー)に還元できるか?」だと思います。現在、YouTubeも含めて、無料で視聴できます。何万ヒットにお金が入る、レベニューシェア方のチャンネルも立ち上がっているようですが。微々たるものです。でも、フィルムメイカー達もYouTubeを「利用」している立場で、そこは平等かもしれません。彼らのサーバー、インフラを使っているわけですから。携帯事業では、今の時代でようやく発展していきそうです。」

ショートフィルムのみを劇場で配給するスタイルの可能性は?

ソル氏: 「ショートフィルムを、5、6本まとめて配給するスタイルは微妙ですね。可能性はあると思いますが、アート・シアターのマーケットが中心でしょう。一般の人々はスターを見たがりますからね。あえて、アカデミー協会が、短編部門のノミネート作品をまとめて上映するオスカー・ショートという上映イベントは、すごい人気です。アカデミー賞が始まる2ヶ月前ほどから、約2週間にわたって昔はニューヨークとロサンゼルスのみ上映していましたが、今では全米50箇所で上映会を行っています。もちろん、「オスカー」というブランドの名前が大きいですね。ここロサンゼルスでは、あっという間にチケットは完売されます。「通常」のショートフィルムのコンピレーションの上映会は正直、観客動員ということでは、難しいと思います。」

ソル氏とは、同じ映画祭ディレクターという立場で、映画祭のあり方、意義などについても議論が続く。最後に、ショートフィルムの魅力を一言で聞いてみた。ソル氏は、「ルール、ガイドラインが無い、真っ白なオープン・キャンバス」と語った。ハリウッドで行われる映画祭。立地的には、セレブを集めやすいとの事で、今後、この映画祭の活動には注目したい

※現在ホーリーショート(※英語ページに飛びます)は2016年8月に12回目の映画祭の開催を迎えます。2016年1月13日現在作品募集をしております。ぜひ監督の皆様のご応募をお待ちしております。