<イベントレポート> SSFF & ASIA 2025 MILBON BEAUTY PROGRAM 【美しさを拓く】上田慎一郎監督トークイベント

<イベントレポート> SSFF & ASIA 2025 MILBON BEAUTY PROGRAM 【美しさを拓く】上田慎一郎監督トークイベント

米国アカデミー賞公認・アジア最大級の国際短編映画祭「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2025」において、美容室向けヘアケア・化粧品メーカー「株式会社ミルボン」とのコラボレーションによるプログラム「MILBON BEAUTY PROGRAM」が開催。『カメラを止めるな!』の大ヒットで知られる上田慎一郎監督をゲストに迎え、3本のショートフィルムの上映と共に、【美しさを拓く】をテーマにしたトークセッションが行われました。

「中学生の時、親父のハンディカムで映画を作り始めた」

中学生の頃から自主映画をつくり始め、自然と映画監督を志すようになったという上田監督。2018年に公開された初の長編劇場映画『カメラを止めるな!』は、300万円という低予算で、わずか2館からのスタートだったにもかかわらず口コミで広がり、最終的には350館に拡大し大ヒットを記録しました。その後も『100 日間生きたワニ』、『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』などの長編作品を発表されていますが、実はショートフィルムとも深い縁をお持ちです。

「中学生の時、親父のハンディカムで映画をつくり始めた頃はショートフィルムでした。映画監督になるまでの道筋でも、短編の映画祭が多いので、若い頃はショートフィルムばかり撮っていました。実は『カメラを止めるな!』以前に監督した作品は8本くらい連続でショートフィルムでした。作り手にとってショートフィルムの良いところは、ワンアイディアでチャレンジできるところ。映画には、物語に合った尺(上映時間)というものがあると思っていて、面白いアイディアを思いついたけど、長編にするには…という場合でも(ショートフィルムであれば)チャレンジしやすい。リスクも少ないので、確実性がなくてもチャレンジできるところが良いと思います。観る側からすると、やはり気軽に観られるところですね。お昼休みに簡単に観られるし、周りにも薦めやすい。2時間の映画を薦めるってなかなか難しいけど、縦型のショートフィルムだと2~3分のものも多いし、LINEでひょいと送れちゃうんですよね。実際、僕の作品を学校の授業で使っていただくこともあるんですけど、ショートフィルムだと、作品を観て、ディスカッションをして…という時間も組みやすいんでしょうね」とショートフィルムの魅力やメリットを語ってくれました。

最近の縦型ショートでは『余白を残したほうが良い』傾向

ショートフィルムの場合、あえて結末やオチについて説明せず、観る者に解釈を委ねるという作品も多いですが、この点についても上田監督は「長編だと、ある程度はスッキリさせて終わらないといけないという部分はあると思います。僕自身は、起承転結をつけて、長編のような構造で短編をつくることが多いんですが、最近の縦型ショートなどでは『余白を残したほうが良い』という傾向を感じています。結末まで完璧だとコメントをする余地がなくなってしまうんですね。『あれはなんだったの?』という余地があると、それについて『こういうことじゃないか?』と答えてくれる人もいたりして、そこに意味が付随して、観る人の“参加感”が高まるんですね。中には、わざと変なTシャツを着ていたりとか、物語的に必然性のない無駄な要素、ツッコミどころをあえて入れている人もいます」と近年のショートフィルムの傾向を明かしてくれました。

2023年には縦型ショートフィルム『レンタル部下』が第76回カンヌ国際映画祭にて「TikTokShortFilm コンペティション」グランプリを受賞し、2024年に発表したショートフィルム『みらいの婚活』もSNS上で大きな話題になりましたが、上田監督はショートフィルムを撮る上で意識していることを尋ねられると「長編以上に無駄を削ぎ落すことを意識しています」と回答。「自分の資質的に、長編でも無駄を削ぎ落してつくりたいタイプではあるんですが、ショートフィルムの場合は、よりその思いが強いと思います。テーマが際立つというのもありますし、TVに近い感覚もあります。劇場映画の場合、映画館に足を運んでもらったら勝ちですけど、TVの場合、いかにチャンネルを替えられないかという戦いがある。ショートフィルムはTVに近くて、スワイプされたら終わりなので、最速で無駄なく進んでいかないといけないんですね。特に冒頭で観る人を引き込まないと、すぐスワイプされちゃう。そこは考えながらやっています」と工夫するポイントを挙げてくれました。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』はすごく美しい

さらにトークでは、MILBONが掲げる「美しさを拓く」という理念に沿って、上田監督が考える映画における美しさを掘り下げていきました。上田監督が「美しい」と感じる映画とは? 

「僕にとってはひとつのシーンというより、脚本の構造など、全体を通じて見た時に美しいかどうかが大事です。例えば『バック・トゥ・ザ・フューチャー』はすごく美しいなと思います。全く無駄がなくて、全てのセリフやシーンが必然性を持っていて、有機的につながって、結末に着地する、そこが美しいと思います。あとは、タイトルの意味が、最初はよくわからなかったけど、物語が進む中で『あぁ! そういう意味だったのか!』となる瞬間も美しいと感じますし、映画を観終えた後にポスターの見え方や感じることがが変わるというのも美しいですよね」。

この日のイベントでは、認知症を患う祖母を持つ7歳の少女の姿を描くドイツ映画『クロネズミ』(Blackmoll)、聴覚障害を抱えたヒロインとスマホのAIアプリによって“生成”された男性との関係性を描く韓国映画『マイディア』(MY DEAR)、そして、母の強い情熱によって学びへと導かれていった主人公が、大人になって、母の亡き後に知ることになる“真実”を描いたアメリカ映画『信じる心』(BELIEF)の3本のショートフィルムが上映されました。

上田監督は、それぞれの作品のクリエイターの“視点”を称賛します。『クロネズミ』(Blackmoll)では、周りの者には見えない“ネズミ”の存在に執着する祖母と、そんな彼女を慕う少女の姿が描かれますが、上田監督は、目に見えないものを『ある』と信じる心の大切さを強調。さらに、ここからトークは「見えないものを描く上で大切なことは何か?」というテーマで展開します。上田監督は「映画というのは、大前提として嘘を描くものなんです。でも、それをいかに本当だと信じさせるか? その意味で、作品内でのリアリティにはすごく気を遣います。宇宙人が攻めてくる映画もあれば、友好的な宇宙人を描く映画もあるけど、宇宙人の設定がムチャクチャだったら信じられない。『これなら本当にあるかも…』というリアリティ、世界観の設定を考えるのは、すごく気を遣います。『宇宙人がいる』という大きな嘘をついてもいいけど、細かい嘘をつくと映画がどんどんダメになっていくんです。『宇宙人と会った時、そんなリアクションしなくない?』と思われたら、信じてもらえなくなるので」と自身の信念を明かしてくれました。

続いて2本目の『マイディア』(MY DEAR)』について、上田監督は昨年、発表したショートフィルム『みらいの婚活』で、“進化した婚活”をテーマに足が不自由な女性を主人公にしていることにも触れつつ、近いテーマを描いた本作を「すごく興味深く見させてもらいました!」と語り「AIに恋したり、友達になるという設定の作品は結構ありますが、難聴を抱えた主人公という設定にするだけで、これまでにない作品になっていました」と障害を持った主人公が直面する様々な事象、物語の展開が、映画に深みや新たな気づきを与えてくれていると称賛を送ります。

また、最新のテクノロジーの進化、コミュニケーションの在り方の変化が映画にもたらす影響についても言及し「スマホの次にスマートグラスみたいなものが完全に社会に普及したら、世界が変わるだろうと思います。現実世界全てがエンタメ空間化して、2D的なエンタメとは違うエンタテイメントが勃興してくるでしょうし、人間とAIの見分けがよりつかなくなると思います。映画館で上映される映画も、観る人の感情をAIが読みとり、リアルタイムで人によってストーリーや結末が変わるという未来もそんなに遠くじゃない気がします」と展望を口にしました。

そして、信じることが可能性を広げていくさまを描く3作目の『信じる心』(BELIEF)について、上田監督はしみじみと「よかったです」とうなずき、トーク前半で語った映画における“美しさ”にも言及し、本作にキーアイテムとして印象的な形で登場する“ドアノブ”について「メチャクチャ美しかったです!」と絶賛。「ひとつの描写にいくつもの意味を込められるってすごく美しいことだと思います」と監督の手腕を称えます。

SNSでのコメントは作り手にとってすごく嬉しいこと

それぞれの作品について、クリエイターならではの視点で自分なりの解釈や作り手が込めたであろうメッセージについて熱く語ってくれた上田監督。自身が監督した作品に関しても、SNS上などで観た人たちが様々なコメントや解釈を寄せ、議論が盛り上がることを楽しみにされているそうです。「それは作り手にとってすごく嬉しいことで、メチャクチャ深読みしていて、こちらが『そこまで考えてなかったな』とか『もしかしたら、そういう意味も込められていたのかも…」と思ってしまうこともあります。映画は完成したら、お客さんのものなので、様々な解釈を含めて楽しんでいただけると監督としてはすごく嬉しいです』とSNS時代ならではの映画文化の盛り上がりを歓迎していました。

本イベントで上映した作品はMILBON BEAUTY MOVIESのサイトで順次配信!
ぜひご覧ください。

MILBON BEAUTY MOVIES

2022年2月にスタートした、ミルボン×「ショートショートフィルムフェスティバル & アジア(SSFF & ASIA)」によるショートフィルム配信プロジェクト。

「美しさを拓く。Find Your Beauty」をコーポレートスローガンに、「美しさを通じた心の豊かさ」の実現を目指すMILBONと共に、世界中から厳選したショートフィルム作品をオンラインで配信しています。心温まる美しいストーリー、心に響く美しい映像や音楽、ワクワク、きらきら、ドキドキ、ほっこり…ショートフィルムで出会える様々な美しさを通じて、ちょっと心が豊かになるような、そんな時間をお届けしていきます。

https://www.milbon.co.jp/fyb-magazine/movie/