第9回ブックショートアワード大賞作品は 北原白秋作詞、山田耕筰作曲の童謡「この道」を モチーフにした短編小説 ウダ・タマキさんによる『夕照の道』に決定!

第9回ブックショートアワード大賞作品は 北原白秋作詞、山田耕筰作曲の童謡「この道」を モチーフにした短編小説 ウダ・タマキさんによる『夕照の道』に決定!

SSFF & ASIAは、9回目となる短編小説の公募プロジェクトで選ばれたブックショートアワード大賞作品を本日発表いたしました。また、大賞を受賞した小説全編をブックショートサイトにて掲載いたしました。

サイトURL: https://bookshorts.jp/20221024s

本アワードは、令和4年度日本博主催・共催型プロジェクト「日本各地のストーリー公募プロジェクト」として開催。これまでのブックショートアワードのテーマは踏襲しつつ、とくに「日本各地に伝わる物語」の二次創作を募集し、700作品以上が集まりました。
今回大賞に輝きましたウダ・タマキさんによる『夕照の道』は、童謡「この道」がモチーフになった短編小説。「この道はいつか来た道」からはじまる原作同様に、記憶を題材に、高校卒業以来、父と距離を置いてきた主人公の父との関係を描いた物語です。

SSFF & ASIA 第9回BOOK SHORTSアワード大賞受賞作品夕照の道 (作:ウダ・タマキ)

<ブックショート大賞選評>

高校卒業以来、父と距離を置いてきた主人公のもとに病院から連絡が入ります。父について先生から告げられたのは、若年性認知症の可能性。しかし、主人公にとって、<あなたとの十年ぶりの再会に喜びや感動は一切なく、湧き起こる感情は悲哀と積年の後悔だけでした>。

父はかつて、ギャンブルとお酒にまみれた生活を送っていました。耐えられなくなった母は、父と小学生だった主人公を置いて姿を消します。その結果、父はお酒もギャンブルも断ち、幼い主人公に愛情を注ぎますが、母を失った悲しみと、その原因を作った父への憎しみが消えることはありません。

<いずれ、あなたの記憶からは消えてしまうかもしれない辛い過去が僕にはありますから>。

けれども、変化は訪れます。退院の日を迎え、息子の記憶さえ曖昧な父と実家に続く夕照の道を歩く主人公。彼の頭には、かつて家族でこの道を歩いた記憶が甦ってきます。そして、懐かしい時計塔が鐘の音を鳴らします。

<僕はポケットから鍵を取り出し、慎重に鍵穴に挿しました。随分と年月が経つのに、ぴったりと合ったことに驚きと喜びの感情がこみ上げてきました>。

十年の空白が簡単に埋まることはありませんし、父のなかで記憶が消えてしまったとしても、主人公が辛い過去をなかったことにすることはできません。それでも、主人公のなかにこれまで父――酒とギャンブルに溺れた父であり、自分に愛情を注いでくれた父であり、並んで夕照の道を歩いた父であり、十年間連絡をとっていなかった父であり、いまは若年性認知症を抱える父――の記憶が堆積している限り、そのどれか一面ではなく、そのすべての総体である父とこれから新たな関係を結ぶことができるはずです。この物語は、そんな人間関係の複雑さと豊かさを教えてくれます。<僕が過去を全て許すには、もう少し時間がかかりそうです>が、この家族がおくる新たな生活が穏やかなものでありますように。

受賞者のウダタマキさんはこれまで幾度も認知症をモチーフにした作品をブックショート関連のアワードにご応募いただき、優秀作品に選ばれてきましたが、今回初めての大賞受賞となりました。

作者プロフィール

ウダ・タマキ

大学を卒業後、介護の仕事に携わって約20年。

これまで多くの高齢者と関わり、様々な人生に触れた経験をもとに「老い」や「家族」などをテーマに

した小説を書いています。

これからも読む人の心が温かくなるような物語を生み出していきたいと思っております。