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SSFF & ASIA 2025 SNSナビゲーターISOさんがおススメする5作品
2025.05.10
今年のSSFF & ASIA 2025 ラインナップの中から、SNSナビゲーターのISOさんがおススメの5作品を紹介します!
「心を撃ち抜かれた」そんなコメントも飛び出すほど、ショートフィルムはショッキングでダイナミックでため息が出る。ISOさんならではの視点で選ばれた5作品、ぜひ大きなスクリーンで、またはオンライングランドシアターで思う存分、ご覧ください!
・『ジェンダー・リビール』
<5/27までオンライングランドシアターで公開>
“ジェンダー・リビール”とは、母親のお腹にいる赤ちゃんの性別を家族や友人などに発表する欧米発祥のイベントのこと。性規範や性別二元論を強化するとして批判も根強い祝祭であるが、本作で開催されるそれはその最たるもの。会場のあらゆるモノは男性をイメージした青、女性をイメージしたピンクで彩られ、嫌々参加したカラフルなクィア3人組は異物のように浮いてしまう。おまけに上司の妻から「Theyの人」と言われる始末。観ているこちらも居心地の悪さに「こんなイベント台無しになれ」と願っていると…想像を上回る破滅的な事態が発生する。かなり邪悪で不謹慎なユーモアだが、あまりの痛快さは思わずガッツポーズをしそうになるほど。
・『いつかきっと抱きしめたい』
<WITH HARAJUKU HALLで6/10上映・チケット販売中>
現在進行形でガザの虐殺を続けるイスラエルの占領で人々は何を奪われたのか、欧州に暮らすパレスチナ人女性の目線から見つめるドキュメンタリー。彼女が奪われたのは、イスラエルに20年間投獄された父親との時間だった。父親は娘を愛しているが、娘は「私が子どもに抱くような感情を父からは感じない」とすら言い放つ。その致命的な齟齬が、本音の対話によってゆっくりと埋められていくプロセス、そして題名の意味が胸に迫る。あまりに多くの悲劇が氾濫し、見過ごされがちな家族の断絶という余波にガザ生まれの監督が目を向けた。大きな意味がある作品だ。祖国の自由を求めるこの父親は、再びガザに向かったのだろうか?この家族の今を思う。
・『ボン・ヴォヤージュ』
<5/30に表参道ヒルズ スペース オーで上映・チケット販売中>
地中海でバカンスを楽しむ夫婦と、命懸けで欧州へと脱出を図るシリア難民たちの間にある不均衡をまざまざと浮き彫りにする社会派ドラマ。難民船に対する夫婦の行動はおそらく多くの人がするもので法的にも正しい。だが多数派で法に則ることが道徳的に正しいとは限らないと強烈に示す本作は、観る者に「何が正解だったのか」という大きな問いを残していく。本作製作後、人種・国籍に基づく欧州の「選択的な受け入れ」が健在化した今や現実はより残酷だ。もちろん難民認定数が極端に少ない日本も他人事ではなく、我々も夫婦のボートから溺れゆく難民たちをただ見つめる乗客の一人。最後に映る人物の眼差しは画面越しのこちら側に向けられている。
・『僕の言いたいこと』
<WITH HARAJUKU HALLで6/6上映・チケット販売中>
映画の取材を受けていたクローズドゲイの俳優が、キャリアか仲間との連帯かの選択を突きつけられるワンカット会話劇。製作されたインドネシアは近年、LGBTQ+への抑圧が強まっている国家。LGBTQ+差別やセクハラを温存する芸能界、未成熟な社会でクィアを公表するリスク、人のセクシュアリティを娯楽として消費する報道や大衆の罪、当事者でない者が説明責任を負わされる不条理、#MeToo運動と性加害の軽視、苛烈さを増すトランスジェンダー差別…本国のみならず、世界中の映画業界に深く根付く諸問題に鋭く肉薄する。彼は誰に触発され、何を選択し、どんな言葉を放つのか。心を撃ち抜くようなラスト3分。多くの人に届いてほしい傑作だ。
・『綿毛の少女』
<6/8 WITH HARAJUKU HALLで上映・チケット販売中>
淡青の空に緑煌めく田園、そして暴力的に赤いトラック。鮮烈なカラーで彩られた牧歌的な風景がまず目を引く。サッカーが得意な少女が、女子を排除しようとする少年サッカーチームに半ば無理矢理参加することに。可愛らしいルックから少女がサッカーを通じて性規範を跳ね除ける寓話と思いきや、“少女の死”という戦慄の展開によりその予想は打ち砕かれる。途中から画面はモノクロへと代わり、演劇のように正面を向いて語り始める登場人物たち。息子が犯した罪を隠すため、その父親が純真な子どもたちを支配・洗脳しようとする様はほぼホラーだ。受け継がれる家父長制を世界はどのように克服するのか、そこに込められた監督の祈りを受け止めた。
<SNSナビゲーター ISOさん>
奈良県出身のフリーライター。映画を主軸に活動しており、主な寄稿先は劇場プログラムやCINRA、映画.com、月刊MOEなど。作品インタビューや批評記事をはじめ、映画業界の現場や課題など、社会的な視点からの記事も執筆する。J-WAVE「PEOPLE’S ROASTERY」で映画紹介を担当するほか、トークイベントの登壇など活動は多岐にわたる。